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    云ひ終ると、直造は叮重ていちように頭を下げた。

    房一はすつかり夢中になつていた。

    「何しに来た!」

    「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」

    「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」

    「いや、もう御免蒙つて脱いで行かう」

    この時さう云ひながら座に入つて来た者があつた。それは今泉だつた。

    「挨拶みたやうなことはもうしたかの」

    「ほう、いつから」

    「おーい、火事はどこい行つたあ」こんな風に、口々に喚いていた。

    と、云つたまゝ直造は首を落して聞き入つていた。房一が云ひかけた時、直造の老いてはいるが練ねれた頭は即座にその意味を悟つた。そして、自分の手落ちだつたことを認めていた。が、この不意打は少からぬ打撃でもあつた。彼はこれまでの生涯に自分が主人役をつとめて来たこの家の中で、未だかつてこんな思ひがけない反撃を喰つたことはなかつた。いや、どこの家の集りでも見たことはない。すべては古いしきたり通りに、一定の型通りに行はれ、それが乱されたことはなかつた。それは彼の身体にすつかり滲みこんでいるあの雅致のあるゆつくりとした段取りのやうに、永い間に築かれ自然と支へ合ひ、ゆるぎのない目立たぬ日常の確信といつた風なものになつていた、――それがこの瞬間に思ひがけない形で動揺するのを覚えた。

    「あゝ、さうだつた。なあんだ!」

    「おつ!こりあいかん」

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