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「それで、――どうかね?」
房一は前の方を向いたまゝだつた。
と、房一は練吉の顔を見て思ひ出したらしく、
しきりにすゝめられたが、道平は縁側に出て、いつのまにか下していた着物の裾を又尻からげにかゝつていた。頑固といふほどではないが、その様子には円味のある手ごはさと云つた風なものが感じられた。
彼は年に似合はず厚く生えた白髪まじりの頭を短か目に刈り上げ、多少猫背になりながら袴の両脇から手を差しこみ、心持肱を張つて坐つていた。それは何々翁肖像といふ掛軸を思はせるやうな古風な律義さと端正さを現はしていた。
そんな風におぼえていてくれるとは思ひがけなかつた。
黒光りのする戸棚の蔭からびつくりしたやうな義母の円つこい眼がのぞくと、
「いや、なに」
「ぜひ、さういふことに」
「どうして又今まで黙つていたのかね」
どこかで、「営林署だ」といふ声が聞えた。そして、黒い人影は左手へ向けてぞろぞろと走つて行つた。何か叫び声のやうなものがその方で起つていた。
突然、練吉の顔には一種の生気が、何となくもう一人の練吉といつた風なものを思はせる疳の気配、子供染みた我儘さが顔にさし、あのひつきりのない目瞬またゝきが止んで、切れの長い目が眼鏡の奥でぢつと線を引いた。
「あゝ、さうか。あゝ、さうか」
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